《アカギ》 拉致 / アカギ×治 -------------------------------------------------  突然黒服の集団が二人を取り囲み、車に押し込んだ。  赤木の知り合いのようだが、尋常な雰囲気ではない。  …車内で赤木と黒服の男が話をしていたが、治には何のことだか分かるはずもなく。  不安を抱きながら、横に座っている赤木に尋ねた。  「あ、あの…。これからどこへ行くんですか…?」  「どこって…組だろ…」  「く…組…!! ……。 あ…赤木さん……ってことは…その…ひょっとして僕たち…拉致、されちゃったんですか…?」  「らち…? クク…拉致ね…。なるほど…たしかにそうかもしれない……」  「え…? ええっ…!?」  (あ、赤木さんが組に…?た、たしかにさっきの闘い方は只者じゃなかったけど…。組員とは考えられないし…)  混乱する治をよそに、車は川田組の門前に到着した。  「勝負は今夜。料亭『広瀬』で行なう。…しばらく時間もある。部屋を用意させたから好きに休むといい」  石川はそういって二人に客間をあてがった。  ―部屋には既に布団が二式と浴衣が二枚。  旅館じゃあるまいし…。  ゆっくりも何もあったものではない。  どこにでもある純和風の客間だが、場所も場所。組の中である。  治は逃げ出したい気持ちで一杯だった。  「さて…とりあえず寝るか」  「え…?ちょ、ちょっと赤木さん…?!」  どこまでもマイペースなこの男はさっさと服を脱ぎ始め、浴衣に袖を通すと、敷いてある布団にもぐりこんだ。  「赤木さ…」  と声をかけた時にはもう寝息が聞こえている。  「うわ…もう寝てるよ…。」  治はあきれるやら、尊敬するやら。    (尊敬はしてるけどさ…。)      沼田玩具に赤木がやってきたのは一ヶ月前。そして今日をもってやめるといって出てきたのだ。  それに治もついてきた。    いつもいつも川島たちにカモられ続けていた自分に、救いの手を差し伸べてくれたのが赤木だった。  先輩に逆らうのが怖くて、言われるままにつきあっていたが、本当は逃げたかった。  「お願いします……!赤木さん、代わってください」  「え? 聞いてたろ。オレはこれから出かけるんだって。だいいち、お前そんなに嫌なら、ただお前がやらなきゃいいだけのことだろ」    そう言って赤木が南郷と出かけていった後も、治は川島たちの誘いを断ることが出来ずに寮で打ち続けていた。  半荘6回打って全てマイナス。時間的に次の半荘で終いになりそうな気配。  …そして今回も負けてしまった。  「先輩がた…オレとひと勝負しませんか?」  最後の半荘の様子を見ていた赤木は、そういってこのギャンブルをひっくり返したのである。    (赤木さんのようになりたい―)  嫌なら断る。ダメだと思っていた状況をひっくり返す才―。  自分にないものを持っているこの男に憧れた。  もちろん赤木のようになるのは無理も承知だが、少しでも近づけたら…。  そう思って同行しようと思ったのだ。    (それにしてもよく眠ってるなぁ…)  治も用意されていた浴衣に袖を通し、隣の布団に横になったが、さっきまでそんなことを考えていたせいで眠れなかった。  相変わらず赤木は寝息を立てて眠り込んでいる。    (線が細いな…)  か細い寝息はまるで死に向かっているよう。  白い髪に白い肌。  今、ここにいるという実感が伝わってこない。  ただ、そこには姿だけがある。  そんな印象を持った。  そっ・・・、と治は赤木に触れてみた。  もちろん幽霊ではないのだから、触れるのだが。    (冷たい…)  寝ている時は体温が下がるというが、赤木の身体は驚くほど冷たかった。  半分死の淵に浸かっているんじゃないかと勘違いしそうなほど―。  「おい…。なに、人の顔触ってんだよ」  「わ…!あ、赤木さん…!お、起きてたんですか!?」           (続きます) -------------------------------------------------